第2部:SO(初期学習実践)
はじめに
本章では、これまでの内容を踏まえた上で、社会と共創する熟達を歩む人がどのように初めての実践をするのかについて示します。 その具体的な内容に入る前に、Book ver.1にも記載していたストレッチオペレーションとの関係性について説明したいと思います。ストレッチオペレーションとは、「成り行きでは届かないが叶えられたら喜ばしい高い目標を掲げ、その実現に向けて自己及び組織の変容に向き合い試行錯誤する学習様式」というもので、永遠に行うものであり、どこまで到達したら終わり、という区切りはないとされています。これに対して、初期学習実践は、永遠に続くストレッチオペレーションという営みの中で、特にはじめて行う時期に絞って行われます。
この文章では、初期学習実践とは何か、その詳細な構成要素、そして具体的な実践の仕方の順で紹介します。
第1節 初期学習実践とは
1-1 初期学習実践の目的
初期学習実践(First Leaning practice、以下FLP)とは、伴走者の支援を伴いながら、実践者が「過去の自分の学習様式を内省し、なりたい姿に照らした意思決定を行い、学習(=できないことを出来るようにする)する活動」を指します。これは、内省を伴うなりたい姿に照らした意識的な学習を行わない場合は、今の自我での成功体験を積むほどを強化学習がされることとなり、学習変容しづらくなる影響で、特に初めに持っておくと良いあり方であるため、ストレッチオペレーションの中ではじめの時期に集中して行います。
一般的な成人は、無意識的に、過去の自分の経験により、今の自分にとって心地よい意思決定をするように学んでいる場合が多いです。しかし、社会と共創する熟達の実践者にとって、なりたい姿に向かって社会と共創し学習するためには、現状の自身の自我と環境に紐づく習慣化された学習の癖のみに囚われること無く、ビジョン・ミッションに照らした意思決定が出来る必要があります。学習の癖の変容は容易いものではないため実践者が現状の学習の癖を認知した上で、一定の期間を区切り、伴走者による適切なガイドを通して、現状の学習の癖からなりたい姿に照らした意思決定をし、学習をしていくことを徐々に可能にしていく取り組みが必要であり、それがFLPです。 また、ここで指している学習というものは、できないことをできるようにする行為です。生存本能に紐づく、自我に紐づいて感情を持ち、リアクションをすることをつづけていてはできないことを、自分がそういう反応しているのはなぜなのかを分解し、ビジョン・ミッションに照らして再度意思決定をしなおすことで、できないことをできるようにすることが可能であると考えています。
初期の段階でこの学習様式を獲得するのがのぞましい理由としては、内省を伴うなりたい姿に照らした意識的な学習を行わない場合は、今の自我での成功体験を積むほどを強化学習がされることとなり、学習変容しづらくなるからです。
1-2 対象となる人
複雑性が高く今はまだ小さいが将来大きくなることが予見される産業領域において、『社会と共創する熟達』の初期学習実践として、『なりたい姿に照らした意思決定をし、学習すること』を行いたい全ての人。
FLPの実践者に必要な準備状態として 1)社会と共創する熟達に対する動機 2)FDの完了 3)あの手この手への動機 が現状あげられます。現状この3つのうち、何かが欠けていた場合、ないし一定の粒度に達してい無い場合、FLPの効用を最大化できない可能性が高いです
1-3 FLPとその他概念との関係性
1-3-1 FLPとIFD
FD自体は長期的に継続していくのものですが、FLPを始める準備段階としてのFDの終わりというものは、明日からFLPのDay1が始められる状態となっていることです。明日から始められる状態としての要件は主に3つあります。1つ目は、学習のエントリーポイントとなるテーマが決まっていること。産業のマーケットリーダーを目指す起業家であれば、ここで探索と作り込みに集中し、競合よりも圧倒的に高い収益率を作れると信じ込める陳腐な参入ビジネスが見つかっていること。
2つ目は、明確な短期目標が定められていること。3つ目は、実践者に対する伴走体制が整っていることです。
FDの一旦の終了時点は、未来に向けてどうなりたいのかについて表しているライフミッションやマスタリーテーマが紡ぎ出されている状態といえます。つまり、これらのことを踏まえると、どこに向かっていくのかというものが決められるのがFDがの山場であり、FDで紡ぎ出されたものに目を向けないと自分の自我からやりたいことや、得意なことへ強化学習が向けられる可能性があります。そうではなく、自分の根源的な願いからくるなりたい姿っていうのを描いたものを探し出すのがFDであるといえます。ただ、その紡ぎ出したマスタリーテーマが必ずしも得意なものであるとは限らない中で、実践を通じてそれを出来るようにする行いがSOであり、FLPです。
つまり、どこに向かうのかを描くのがFDで、それをできるようにする、最初の階段がFLPという関係性となっていいます。
1-3-2 FLPと探索と作り込みについて
社会と共創する熟達を目指す中で、見えてないもの見えるようにする「探索」と、見えているものを深めていく「作り込み」の両輪を回していくことが重要だと考えています。世代を跨ぐほどの長期的な社会課題に向き合うということは、今見えている課題や事業機会に閉じられず、見えていないものを見つつ、見えているものを深める双方を行う必要があるからです。
例えば、事業を開始したばかりの起業家においては、足元で取り組んでいる事業で圧倒的な高収益を獲得するために、オペレーションを精緻化し、作り上げる「作り込みと」今見えている範囲を拡張し、次のビジネスの機会をも見つけだす「探索」の双方を循環しながら行うということです。ここで注意しておきたい点が3点あります。1点目は、「探索」と「作り込み」は、両者循環するものであるということです。ですので、どちらからはじめるなどという決まりもありません。2点目は、探索や作り込みが、時間軸や事業レイヤーなどの観点に対して、色々な粒度で捉えられるということです。探索に関しては、上記の起業家の例以外でも、「株式会社で始めていることを、非営利の形態で行うと社会課題に対してどのようなものが取りうるのかを見ていくということ」、「A事業に隣接するB事業に進出すること」、「A事業の中でもWebだけでなくリアルで接点をとること」なども探索であると言えます。また、作り込みに対しても「あらゆる条件のもとでも同じ成果を出せるようにすること」「自分以外の人であっても再現性高くできるようにすること」など、様々な粒度があります。3点目は、双方の概念を分断しないことが大切だということです。2点目の部分で探索や作り込みの具体の例を出しましたが、「探索」と「作り込み」ははっきりと区別されるものではなく、探索と思われることを突き詰めると作り込みになるという場合も往々にしてあります。
探索と創り込みは性質の異なる手法であり、両方を得意とする人はなかなかいません。過ごした環境から育まれた「自分らしさ(自我)(*IFD参照)」により、どんどん新しいものを見たい・チャレンジしたいという探索に偏りがあったり、規定された範囲の中や既存の枠組みの中で精緻化する作り込みを得意とするなど、良くも悪くも人それぞれの癖があるものです。実践者が双方をバランスよく使い分ける重要性を認識した上で、自身の癖を理解し、得意な方を伸ばしながら、苦手な方にも触れていくことが必要です。自分の癖に気づくために、他者の視点も取り入れることも有効です。
1-4 FLPの効用
FLPは、現状の実践者の学習の癖をなりたい姿に向けて、過去の自分の学習様式を内省し、なりたい姿に照らした意思決定を行い、できないことを出来るようにする営みです。この営みは永遠に続き、大きく3つの効用をもたらします。 1つ目は、なりたい姿に照らした探索と作り込みという学習様式の獲得です。ここでいう学習様式とは、その時の感情ではなく、ミッション・ビジョンといったなりたい姿に照らして施策を出し、メタマルチで施策を生み出し続けるという、経験学習サイクル(詳細は『実践の仕方』「あの手この手」参照)の回し方です。FLPにおいて、環境のせいにできない場所で矢印を自分に向けながらこれらを体得していきます。 なぜこのような学習様式の獲得が大事なのかというと、なりたい姿に意識的にならないと、もともとの学習の癖によって、起きたことに対して感情から思考と行動を回してしまってしまうことが考えられるからである。ライフミッションというものは、自分の願望をもとに紡ぎ出しているため、過去の自分が触れてなかったものも含めて時間軸を入れた願望を含んでおり、これは現時点でできること・得意なこととは限りません。むしろ、苦手・不慣れなことである可能性が高いです。これを踏まえると、今の自分の自我から紡ぎ出した意思決定構造だと、ずれた意思決定をしてしまい、永遠にそこにたどり着かないと考えられます。なりたい姿に照らした意思決定で、時には気持ち悪さを感じる意思決定をするように変容していく必要があるのであり、そのような意思決定をするために、小さくアクションにして行っていくのです。
2つ目は、実践者を含むチームや組織メンバーが有りたい姿に照らした意思決定を行うのを学習する組織のカルチャー土壌形成です。1で述べたような学習様式を、自分のみならずそれを体現するチームをつくっていきます。なぜCEO以外もこのような学習をする必要があるのかというと、CEOが、FLPを通じて、今まで見ないようにしていたものを見るようにし、やれることや見えることが広くなり、その状態と高い利益率をつくる事業が作れている状態と紐付けている状態です。次世代の産業創造を目指す会社では、時間軸を含みながら、一世代では終わらないようなことをしようとしているために、探索の道は続くはずです。そうなったときに、CEOが自分の学習を拡げていくことでできた事業であるため、次の人も、学習の仕方を踏襲して事業を引き続き探索と作り込んでいくことが必要というわけです。
3つ目は、マーケットインサイトの獲得です。実際に陳腐な事業を回し、高速で学習することを通してマーケットのインサイトを得ることが重要であり、事前リサーチに時間をかけても本当の意味での解像度が上がりません。まずはキャッシュフローを回しながら相対優位を築き、解像度を高めるための場所(ビジネス/プロダクト)を選定することにつなげていきます。複雑性からまだ小さい市場でワンプロダクトで突き抜けられない状態な中、マーケットの解像度を上げながらマルチプルに展開するインサイトを獲得し、競争優位性を構築を目指します。
第2節 構成要素
2-1 エントリービジネス
以下では、エントリービジネスに関する概要について述べます。
将来伸びゆくマーケットだがまだ顕在化していないフィールド(PBF)においては、実践する前に打ち立てた仮説で金鉱脈を探り当てるという学習行為ではなく、領域の中で顕在化している陳腐なところでインサイトを得た方が、タイミングや力関係・力学などカオスにしか見えない業界構造を実践を通じて深掘りができます。つまり、事前にクリティカルなポイントを決め込めないことが肝要です。(むしろ決め込めないはず)
よって、エントリービジネスでは、業界の構造が動かない中で”磨き込むこと”に注力し、収益が出ると信じられるビジネスを学習フィールドとして選定することが望まれます。
次に、エントリービジネスの4つの選定要件について説明します。
- PBF(長期で見ると有望と思える領域)と関わっていること
- マーケットが存在していること
- 競合が強くないこと
- やり込めば絶対高い収益を出せるはずと信じられること
1つ目に、PBF(長期で見ると有望と思える領域)と関わっていることです。
ただし、領域のコアから入るという視点は不要です。エントリービジネスの時点で起業家が持っている感度でコアだと思っていたものに参入しても、PBFへの解像度が上がった後にコアではなかったことに気づいて、サンクコストを生む可能性があるからです。先に述べた通り、事前に変数を見立てることにはあまり意味がありません。これから作り込もうとしている領域に無関与で無ければ問題ありません。
2つ目に、マーケットが存在していることです。マーケットの存在とは、ビジネスが顕在化していて、多数の(弱い)競合起業が存在していることを意味します。いわば、「陳腐なビジネス」と表現でき、社会と共創する熟達の学習のエントリーとしてはこの「陳腐なビジネス」から始めることが肝要となります。
ただし、マーケットサイズが大きい必要はありません。マーケットサイズが大きいが緩くやっているところは、”訳あって”緩くなっている可能性があります。
マーケットが存在していれば、マーケットを言い訳にせず自分に矢印を向けて学習できることから、起業家(及び組織)の学習の癖を修正できます。
3つ目に、競合が強くないことです。競合が強くないとは、いくつかの観点から説明できます。
まず、参入障壁や相対優位を築いている競合がいないということです。なお、そうした競合は、オペレーションを作り込んでいないか、重要リソースを抑えられていない可能性があります。
次に、大きく投資する競合がいないことです。これは、中大手の競合は部署レベルで取り組んでおり、特化はしていない、また同じ課題に取り組む大型調達済みのベンチャーがいない、という状態です。
4つ目に、やり込めば絶対高い収益を出せるはずと信じられることです。これは、ちゃんとやればしっかりキャッシュフローを取れる、顕在化していて確実に勝てるところで始める、「ここで勝てないと自分たちのOpsはグタグタである」と思える一番緩いところを探すということです。例えば、将来は大リーガーを目指すのだが、入り口は競合の少ない地域の少年野球チームを相手にして、ここで勝てないとおかしいというところでスタートする、というイメージに近いでしょう。
では、なぜ陳腐なビジネスがエントリーに適しているのでしょうか?
まず、学習退行をさせないためです。学習退行とは、インサイトを得る過程で、いかに既存プレイヤーが低収益になっているかという証跡を得て、エントリービジネスへの信じ力が減っていくことです。
これは多くの起業家において起こり得ることで、彼らは往々にして「バリューチェーンのどこかで押し込まれているから構造上無理なんだ」という言い訳をします。しかし、「こうだから無理なんだ」と言い始めることは、得たインサイトをマイナスに活用させている可能性があります。本来、確実に数社存在していて、マージンがやり込めば3倍くらいの利益になると信じられているのであれば、インサイトを得ることは全部「利益を上げること/アクション」に移せるはずです。
また、結果として存在しているマーケットを通じて、業界構造の複雑性にリーチするためでもあります。あらかじめマーケットを外から見て仮説を立てるのは難しいです。ステークホルダーや、プレイヤー・クライアントも多段階で、それぞれのインセンティブで意思決定をしているからです。そうした中で、動的・複雑な社会の中で静的に見えるもので続いていくであろうと思えるものを、結果として存在していて、訳あって商売が成り立っているであろう会社(競合)を見てピックしていきます。そして、意思決定や権力構造へのインサイトを、プロダクトを通して得ていきます。抽象的に言えば、ステークホルダーのインセンティブ構造を多段階で見ることを行うということです。
さらに陳腐なビジネスから始めることには大きく4つのメリットがあります。
- 高いキャッシュフローとそれを創造するカルチャーの獲得
- 強いOPsとそれを創造するカルチャーの獲得
- 領域のビジネスインサイトの獲得
- 起業家(及び組織)の学習の癖の特定と変容
1つ目は、高いキャッシュフローとそれを創造するカルチャーの獲得です。これは、顕在化している(しかかっている)プロダクトから入ればしっかりと収益を作れるというカルチャーづくりに繋がるということです。さらに、キャッシュフローを作ることで、領域で実践する時間が稼げることもメリットとして挙げられます。
2つ目は、強いOPsとそれを創造するカルチャーの獲得です。陳腐なビジネスを通じて「磨き込み」を学習します。ここでの「磨き込み」の学習は汎用性が高く、他のプロダクトにおいても活用できます。
3つ目は、領域のビジネスインサイトの獲得です。ビジネスインサイトは、次のプロダクトの探索と今のプロダクトの磨き込みに活用できます。実践の過程を通して、起業家から始まり、一定程度の内部の責任者たちがビジネスインサイトを得られるサイクルに入ることができます。
4つ目は、起業家(及び組織)の学習の癖の特定と変容です。陳腐なビジネスはプレイヤーがすでに複数存在しており、皆それぞれに生き残っています。その中でうまくいかない事象が発生した時には決して環境要因にすることはできないはずで、自分たちのオペレーションの弱さや学習の癖に対して内省し、自身に矢印を向けて学習に向き合う必要性が出てきます。この内省的な姿勢を通じて、起業家(及び組織)の学習の仕方をアップデートしていくのです。
では、そんな陳腐なビジネスはどのように選定することができるのでしょうか。流れとして大きく3つのプロセスで陳腐なビジネスを探し、選定・意思決定していきます。
はじめに、プロダクトの妥当性を確認します。これは、領域内の顕在化しているマーケット、存在しているプロダクト、それがPMFしている証跡をとりにいく、ということです。ただし、「顧客が困っている」などの課題を見に行くわけではありません。「新奇性」が介在してしまうからです。顧客の”言っている”課題をベースにビジネスアイディアを探すのではなく、”存在している”マーケットを見て、成立しているならそこから入ります。
次に、競合が存在しているかの確認を行います。具体的には、競合会社リストをピックし、何社程度存在するか、を見に行きます。
そして、存在していた競合の詳細調査を行います。具体的には、売上、利益(節税の可能性もあるのでトントンでも良い)、組織・社員数、主な特徴(X年くらいやってるけど横ばいが続いているので今後も続くと思うなど)、OPsの強さ、時系列背景(インサイダーヒアリングも活用)などです。
この流れでいくつかのビジネスの中で一番緩そうで、しっかりやりこめば高い利益を創出できると信じられるビジネスから入り込むのです。
2-2 ストレッチターゲット(以下、ST)
本節では、ストレッチターゲット(ST)に関する概要について述べます。
はじめに、STを設定する前提を説明します。初期学習プログラムを開始するタイミングでFDが終了していれば、学習者はライフミッション・PBF・マスタリーテーマを既に紡いでいることになります。STの設定も、それらに紐づいた形で行われます。
STとは、「成り行きでは達成できないが実現出来たら喜ばしい高い目標」を指します。以下では、この定義について説明します。
まず、前半の「成り行きでは達成できない」について説明します。前の節で既に述べた通り、陳腐なビジネスにおいては、成り行きでも一定のキャッシュフローが発生し、ビジネスを継続する事は可能です。しかし、現状維持では学習は加速しません。それゆえ、ストレッチなターゲットを立てることで、成り行きでは対処できない状況を生み出していきます。
「成り行きでは達成できない」ことで、学習者は自身の現状とSTとの差分を認識しながら、自身の変容の可能性へのエネルギーを紡ぎ、掻き立てることができます。
後半の「実現出来たら喜ばしい」は、学習者のオーナーシップを醸成することに繋がる条件です。成り行きでは達成できない目標ゆえに、その実現には強い動機が求められます。「実現出来たら喜ばしい」と心から思えれば、簡単にははがれない動機を持続させることができます。
次に、ST達成までの期間について説明します。学習者は、6か月から12か月を期限としてSTを設定します。なぜなら、Reapraにおける過去の支援から、12か月以上では効果を検証するには長すぎ、6か月未満ではオペレーションの感度を掴むのには短すぎる、と判断しているからです。
6か月から12か月のSTを設定した後には、四半期や月次単位で達成したい目標へとブレイクダウンします。そして、短期的な目標をクリアにし、日々の学習にいっそう集中できる環境を形成していきます。
では、そのようなSTにはどのように設定していくのでしょうか。
まず、ライフミッションやPBFにおける熟達などの目標地点と現在地点をリニアに結んだうえで、12カ月後のなりたい姿をブレイクダウンしていきます。
このとき、季節要因や目標に影響を及ぼす要因を洗い出して、それを加味するようにします。外在的な影響ゆえに目標達成が阻害されることを予期したうえで目標を立てることで、動機の持続を担保するためです。
ブレイクダウンした後に、12カ月後になりたい姿を設定します。なお、ここでの目標は、期間目標ではなく、地点目標です。
このとき、数値化しにくい要素を拾うため、まずは定性目標から立てます。さらに、事業や組織の状態にとどまらず、強みを伸ばし弱みも補強していくような、その人自身が徐々になりたい姿に変われていると実感できる、自我課題も含んだ目標を設定します。
例えば、「自身が離れていても事業が一定回るように複数人へのデリゲーションが完了している状態」(人巻き込みに関する自我課題を含む)」といった定性目標がSTに該当します。
そして、次に定性目標を測定可能なものに定量化し、目標の進捗や達成の評価を行えるようにします。
例えば、「人材紹介業の業界標準の利益率は20%である。よって、圧倒的に高い利益率、は、その2倍である40%を目指すことにあたる。」といった設定が該当します
2-3 経験学習サイクル(あの手この手)
本節では、あの手この手に関する概要について説明します。
あの手この手とは、不透明な環境下で自我変容を伴う学習サイクルを高速に回す学習方法を指します。
より詳細に述べれば、ここでいうあの手この手とは、大量に施策を想起実行するコンセプトのみならず、自分らしさから来る学習スタイルを深く認知し、学習の過程で徐々に自己変容をすることを包含したコンセプトになっています。そのため、FLPを始める時点で、FDを通して、自分自身の囚われやらしさを深く理解できていればいるほど、自我を活用したあの手この手、さらにはFLPが推進する、という構造になっています。
まず、日々の業務を行う中で、自分らしさや学習の癖を認知するポイントとして情動があります。情動とは、心臓の動悸など、身体感覚の反応、アラームが立つことです。情動は、感情とは異なります。感情は、情動を自身の自我に照らして評価し、ラベル付けを行ったものです。例えば、本来それ自体には意味のない心臓の動悸に対して、ワクワクや恐怖のような意味付けと言語化を行ったものが、感情に該当します。
参照
感情は、感覚器官から送られてきた反応を、活性度と快不快の2軸から評価することで発生します。FLPの対象に没頭していれば、その対象への感度を身体感覚に取り込みやすくなるはずです。例えば、雨の日に悲しいと感じるのは、「客足が遠のき、売り上げが落ちる」からと解釈されるようになります。
次に、多面的・多段階な施策出しについて説明します。多面的とは、自身の自我ゆえにブラインドスポットとなっていそうな点からも事象を評価すること、多段階とは、時間軸を伸ばしてミッションやビジョンに照らして事象を評価すること、をそれぞれ指しています。
ここからは、あの手この手サイクルに取り組む際の具体的な方法について説明します。
まず、何か情動や感情を感じたら、そのまま素直に受け入れます。「こんなことに恐怖を感じてはいけない」「ここで満足してはいけない」というディフェンスをなるべく入れずに、嬉しいことは嬉しい、悲しいことは悲しいと、そのままに感じます。これは、自分自身の自我の現在地を理解することにも繋がります。
次に、意思決定をそのまま行ってしまうのではなく、なぜ自分自身はそのように感じたかを多面的に解釈しようと試みます。そうして、本来は機会であるものなのに自我ゆえに危険と感じていたり、自身が見落としていた側面がないか多面的な解釈を入れてみます。例えば、不快と感じた事象を、将来的に大きな報酬に変えられないか考えてみる、といった思考です。あるいは、自身の感情は不活性であったとしても、その事象に実は何か重要な気付きが含まれるのでは、と探ることも、この例に当てはまります。
イメージとしては、一石二鳥ならぬ、一石に対して五鳥を得ていくように、あらゆる側面から考えることです。感情に左右されず冷静に対処するべき、とするのではなく、自我ゆえに捨象していた対象についても禍を転じて福と為すと考え、拾っていく姿勢が大切です。
また、敢えて現状の自我から離れ、将来なりたい姿に照らして考えてみることもできます。なりたい姿に照らして考えるとは、現状自分が感じていることを切り離し、実践者や組織のミッション、ビジョン、作り出したい組織のWayに基づいた意思決定を行う、ということです。
こういったステップを経て、今行える小さなアクションを大量に想起し、実行していきます。
こうして想起されたアクションは、ただ闇雲に考えた施策とは異なり、自分自身の癖を注意深く認知しながら、時間とともに自分自身が徐々に変容していくことも織り込んだものになっているはずです。そのため、自分が不慣れであることも多く、取り組み自体が億劫に感じたり、苦手意識を感じることもあります。そうした状況でも歩みを止めず、かつ副作用もできる限り抑えるために、それぞれのアクションはできるだけ小さいサイズに切りだして実行・振り返りされることが望ましいです。より具体的な目安でいうと、情動・感情を受け多面的・多段階に想起したその日や、その次の日には実践に移せる程度の塊にすることが重要と考えています。
上記のサイクルを日々繰り返す中で、情動からの施策出し・実行のプロセス自体を多面的・多段階にアップデートし、あの手この手でなりたい姿に近づくことが、FLPで有効に学習するためにも欠かせない学習のスタイルであると考えています。
なお、具体例については、以降の進め方ガイドをお読みいただければ幸いです。
2-4 ダッシュボード(DB)
本節では、ダッシュボード(以下、DB)に関する概要について説明します。 まず、DBの定義について説明します。DBの定義は、「ありたい姿(tobe、目標)と現在地(asis)を可視化し続けて、日々の実践を記録し、その差分から学習の気づきを得るためのサポートツール」です。
一般的には、事前に変数を精緻に洗い出したDBを作ることが散見されます。もちろん、作成時にできる限りの変数は洗い出しますが、事前に変数を決め込みすぎることには落とし穴があります。なぜなら、実践の前に見えていることはあまりにも少ないにもかかわらず、決め込んだ変数だけに執着してしまい、結果実践を進める中でのDBのアップデートを妨げるからです。
不透明な環境における学習においては、プリミティブ(原始的)なDBから始めて、実践を通じて見えてきた変数を足し込んでいくことが望ましいといえます。最初から細かく重厚なDBを設けても扱い切れるわけではなく、実践をしながら扱える変数の幅を広げていくという姿勢で良いのです。
また、ダッシュボードの記録と活用は毎日実施することで、差分に敏感になり学習サイクルを回しやすくなります。なぜなら、これまで見落としてきた軽微な変化の中にボトルネックが存在する可能性があるからです。DBの高頻度での活用により、小さな変化からの発見を気づきと施策に落とすことが可能になります。
2-5 他者巻き込み
本節では、他者巻き込みに関する概要について説明します。
初期学習実践における他者巻き込みとは、FLPにおいて目的としている学習様式をCEO自身が実践し体現することを前提としています。その上で、STを掲げ、①他者の動機を高める、②自身の包容できる範囲を広げる、③対話を通して施策実行を進めるという3つを行いながら、FLPを体現できる人を増やしてカルチャーにし続けていくさまです。
他者を巻き込むときに、Reapraで大切にしている考えがあります。それは他者巻き込みの前提として、その他者は動かしにくく、また巻き込む他者のキャリアも自分の目標と同様に大切にしなければならないということです。そのように他者を巻き込んでいくには、他者を深く理解する必要があり、相手と対話しながら向き合うことが大切だと考えています。
また、他者巻き込みを行うときには、当然ながら自身と向き合うことも必要となってきます。なぜなら、大前提として、起業家がそれぞれ違っているように、巻き込む人もそれぞれ違っているからです。さらに、両者の間での成長の速度も同じではなく、互いに期待値を高く持ちすぎることも危険です。また、変数が多いことに取り組んでいることを理解した上で、実践を通してその都度巻き込み方を変えていくことが必要です。そのため、ここに記載していることも絶対的なものではなく実践の1事例であると考えていただきたいです。
それでは、なぜ人を巻き込む必要があるのでしょうか。社会と共創する熟達を歩む起業家にとって、ライフミッションは、人生をかけて達成したいと思う高い目標であり、ひとりで成し遂げられるものではないことがほとんどです。そのため、ライフミッションの達成には、より多くの他者を巻き込んでいく、つまり他者と共創していくことが不可欠であり、その結果として、通常では届かない目標を達成できると考えています。
続いて、巻き込む人について説明します。FLPにおいて巻き込むとよい人の要素は以下の3つです。ここで留意しておきたい点としては、あくまでもFLPの目的は、実践者の学習が進むことであるため、スキルのある人などの要素は入ってこないということです。
まず1つ目の要素としては、FLPのゴールに向かうことに対して動機があることです。ゴールに対してできないことをできるようにしていく、というFLPにおいて、会社や巻き込む人のMssion、Visionと自身のMission、Visionのオーバラップがあり、強くFLPに関わりたいと思えていることが大事だと考えています。次に2つ目の要素としては、素直で柔軟でコンディションが良く、前向きなことです。FLPを行う中で、やりようがないと感じる場面がいくつもあると思います。その際に、柔軟に前向きに取り組む姿勢があることで、コミュニケーションコストもかからず、ストレッチターゲットに向けて施策を実施し続けられると考えています。もう少し具体的に述べると、ここでいう前向きな人とは、学習をするための心身の準備状態がある人のことを指し、課題に対して前に進めたり、課題が起こっている背景にある自分自身の自我などに踏み込める人のことを指しています。最後に3つ目の要素としては、試行錯誤が好きで提案をしてくれることです。あの手この手をしていくFLPにおいて、実践者とともに試行錯誤して施策を出せる人であることは、ST達成に向けて、重要な要素だと考えています。
第3節 実践の仕方
では、実際に初期学習実践(以下:FLP)を始める場合どのようなステップで進めていけばよいのでしょうか。この章ではFLPの具体的な実践の仕方を3つのステップに分けて説明していきます。
ステップ1:FLPを始める前の準備
このステップではFLPを始める前に準備しておいてほしい4つの観点について書いています。その4つは以下の通りです。
- エントリーポイント
- 目標ST(ストレッチターゲット)
- 伴走体制
- DB これらの4つはFLPを始める前のFDなどによって紡ぎ出されていることが必要です。
ステップ1-1:エントリーポイント/陳腐なビジネス
では、エントリーポイントからです。エントリーポイントの詳細については前章の構成要素をご覧ください。
エントリーポイントは探索が容易な「陳腐な領域」を選定していることが準備として必要になります。これは他社とのビジネスモデルの比較が容易なために学習の進捗が確認しやすく、またプロダクトがうまくいかない場合にマーケットフィットのせいにするのではなく経営者自身のやり方へと意識が向けやすくなるからです。
具体的な定め方ですが将来が有望な領域で足元ではまだ市場が小さいまたは存在していないところであっても、実際に成立しているビジネスを陳腐な領域として選びます。そこでキャッシュフローを回しながら相対優位を築き、解像度を高めるための場所として学習していきます。その領域の中で探索と創り込みを活用した組織的な学習のカルチャーを醸成します。
ステップ1-2:ストレッチターゲット(ST)
次はストレッチターゲット(以下ST)になります。STは定量・定性の2つの種類がある中で事業の課題を定量的に置きながら、自我課題やなりたい姿に向かうための定性的な目標をおきます。成り行きでは達成できないもので実現出来たら喜ばしい高い目標を、学習者がオーナーシップを持てる範囲のもので設定します。この時にあの手この手サイクルが頻繁に回るように素早く想起し、結果が分かるもので実践を行います。
では、実際にどのようにSTを定めていくのかについてです。まず、ライフミッションから嚙み砕いた12か月後のなりたい姿を定量・定性の両方から考えていきます。この時に最初に定性目標を考えます。そしてそれが定まった後に定量目的を定めるようにします。
これはどうしてかと言いますと、12か月後にあるべき姿としての定量目標を言語化しようとするとその目標をいきなり数字で定めるというのが難しいためです。定性目標として「~な状態」という言葉に置き換える時に、数字に落とそうとしているがゆえにいろいろなものを捨象してしまったり、数字で測れるもので目標を立ててしまうことで本来のなりたい姿の全体像を歪めてしまう可能性が出てくるのです。そのために最初はなりたい姿として12か月後のある時点でなっていたい定量目標を定めていきます。
例(定量目標):
・12か月後の時点で1000万円の利益を生む組織を作り上げる。
・12か月後に自分のマスタリーミッションやライフミッションになぞらえた自分の自我の課題として人巻き込みできている状態。
・12か月後に他の人に渡せるようなデリゲーションができるようになっている状態
上記の例のようなものが定性目標になります。次に定量目標に落とすためにこれをさらに細分化して、ある時点でなっていたい状態を言語化します。この時の注意点として数字の事業上の目標だけではなくて自身の自我課題を含んだものを目標にしていきます。これらは人によって学習ポイントが異なっており、伴走者と一緒に言語化していきます。
例(定量目標):
・人材事業の場合には通常20%くらいの営業利益率を得られているところなので倍の営業利益率を目指そうというので40%にする。
このようにして定性目標を立てたところを1つ1つ定量目標に測定可能なものにしていこうと思った時にどのような置き方ができるのかということを考えていきます。
実践のファーストステップ: まずは定性目標から考えましょう。12か月後になりたい姿を漠然とでもいいので思い描きましょう。
ステップ1-3:伴走体制
3つ目は伴走体制についてです。実践を通じて学習していく中では、自分の見えないもの・見たくないものにも目を向けながら、できることを増やしていくことが不可欠です。いくら意識的になろうとも一人で自分では気付いてはいない自身の改善点(ブラインドスポット)に気づくことは、特に初期学習段階においては困難を極めます。FLPでの学習は最初に自身のスキルセットを用いた比較的快適な環境から始まり、徐々に苦手なものに触れていくという方法で進められます。この学習の場合、初期段階では自身の考え方や行動様式によってその他の構造が見えておらず、苦手や恐れに対して自我が出る機会が多くなります。そのため第三者による学習の伴走は、自分の内面にも向き合いながら学習するにおいて欠かすことのできない要素と言えます。伴走者は、学習者と同じように社会と共創する熟達の実践をしているプレイヤーでもあり、相対的に高い包容力(視座とスキル)を持ち合わせ、互いにもつ自我の囚われ(シャドウ)の相性も加味した上で選ばれることが望まれます。伴走者は日々学習者との対話を通じて、学習者の学習の癖やブラインドスポットに気づきを与え、学習しやすい足場掛けをすることで支援を行います。また、学習者と伴走者という分け方をしていますが、学ぶのは学習者だけではありません。伴走者もまた学習者と同様に自身が学習したい範囲を学習者とともに学習することになります。
ステップ1-4:DB
実践を行っていくうえで、目標(to be)と現状(as is)を可視化し、日々の実践を記録しながらその差分から施策を想起し学習に活用するツールがDBです。現状となりたい姿の差分に敏感になり、なりたい姿に向かって熟達していくための動的なサポートツールとして使用していきます。ここでは実際にDBを作っていく方法について書いていきます。
DBは実践が始まると同時に活用していくものですが、実践のDay1を迎えるにあたってDBが準備できていることが望ましいです。DBを運用するにあたって前提となるのが熟達していない領域において最初から精度の高い仮説を持つことが難しく、そのために実践を通して徐々に解像度が高いものを作り上げていくというのがありました。学習者は本人が見えている以上のことを見ることができません。そのためDBにおいても最初から細かく作り込むことはせずに粗々の状態(プリミティブなDB)からスタートさせています。
Day1を始める前のこの段階ではDBにファネルの入口から出口までを示しておきます。
これは実践を何から始めていくのか、そして最終的にどうなっていけたらいいのかをステップを踏みながら考えるということです。ただし、1つ1つの完成度はこの段階では気にせず、これから作り込むことを前提に作っていきます。この時に重要になってくるのがファネルの入口と出口です。入り口はそこから始めていくというもので、今の自分が見ている中で最も広いものを選び、なるべく捨象されるものがないようにしていきます。例えば入り口としてテレアポを最初にやっていくと考えた場合に、その前段階の顧客リストやもっと前のことを見逃してしまいます。このようなことを防ぐためになるべく広いところから考えるようにし、事業に関係するもののみならず、今想像しうる最大限のスコープはどこなのかといったところを考えていきます。また、出口とは事業の場合、「営業利益」のことで、「費用」と「利益」の両方を見ることとなります。これらがファネルのつくり込みにあたるところですが、学習者1人でこれらを行っていくと見えている範囲の限定性から学習アナロジーなどから知らず知らずのうちにスコープを狭めてしまうことがありますので、随時伴走者と対話しながら作り込んでいくことが重要です。
学習者のみが詳細を理解しているといった運用者の属人化を防ぐために、DBの中ではあらゆることを言語化し明文化しておきます。
先述したように最初から作り込むということをせずに粗々で運用していくので、数値的なものは入れられるところだけで、素早く実践へと移れるようにしておきます。
初期段階での思い込みをなくすために、初期段階のDBにある変数はあくまで熟達していない状態で導き出されたもので、変わる余地があることを認識しておきます。
以上のことが決められれば、粗々ですが明日から活用していけるような状態のDBになります。
これらのことが定まっていれば明日からDay1が始められる状態です。これ以降はステップ2になります。
実践のファーストステップ: DBを作り、そこにこれまでの目標を書いてみましょう
ステップ2:FLPのDay1が始まる
ここからはFLPのDay1が始まります。学習者は日々の学習を行いながらあの手この手を行い、それをDB上で管理していきます。また、実践を始めるにあたって自分以外の他者を巻き込む他者巻き込みも行っていきます。
ステップ2-1:キックオフ
陳腐な領域でこれからDay1の実践を始めていくことになった場合、学習者一人でできることには限界があります。そのため学習者はDay1を始める前に自分以外の他者を巻き込んでいくことも必要になります。。他者を巻き込んでFLPを進めるにあたっては、キックオフでこれからDay1を始めるにあたってのメンバーの動機確認やSTのすり合わせを行います。キックオフは学習者と巻き込まれるメンバーの両方で作っていくもので、学習者が一方的に巻き込んでいくということではありません。
互いにチームに参加する動機を確認しながら、チームとしての目標であるSTの達成に向けて動機を紡いでいくようにしていきます。このコミュニケーションの際に学習者は最初に、自分が巻き込むメンバーに自身が期待していることを伝えます。ビジネスであれば全員が高いモチベーションで、答えがない中でも試行錯誤していきながら高収益を出せると信じ、それを仕組化していくことを巻き込むメンバーと一緒に実践したいという思いを伝えます。それと同時に巻き込むメンバーからも今回の取り組みに加わる動機を聞いていきます。動機がないメンバーとは個人面談などをしながら対話を経て動機を紡いでいくようにします。相互に動機を確認していくのは全員がオーナーシップを持って、みんなで決めたことを徹底していくのに必要なコンセンサスを取るためです。
その次にSTに向けてのチームの歩みを話し合います。学習者はSTで設定した期間の中で、「作り込みを続けながら、人巻き込みをしつつ自分自身も楽しめている」という目標を言語化し、メンバーに共有します。メンバーはその目標に対して学習者と同じように感じるのか、突っ込みどころはないのか、場合によっては学習者と一緒に修正を行っていきます。また、建設的にみんながよりストレッチしたいという時には、もっと上に上方修正して、全員参加の上で進めていきます。
こうしてメンバーにもこの取り組みと目標に対してオーナーシップを持ってもらい、チームとして一体感をもって試行錯誤することができるようになればキックオフが完了したことになります。チームとして動機が伴っていない場合にはもう一度キックオフをやり直します。
実践のファーストステップ: 自分が関わってきた人の中から一番巻き込みやすい人に自身が今やろうとしていることを伝えてみましょう。
ステップ2-2:あの手この手
日々の実践においては「あの手この手」と呼んでいる経験学習サイクルを活用することが可能です。(詳細は前章の構成要素を参照)
この経験学習サイクル(あの手この手)では、自身の情動・感情といった内面にも目を向けながら、自身の思考・行動・意思決定の癖(無意識の判断、いつものパターン)を知り、立ち止まって再評価しMVに照らした意思決定を行います。この再評価したアクション・施策は、これまで目を背けていたり苦手だったからこそ視野に入れられていない行いでもあるためうまく進めづらいので、小さなアクション(クイックアクション)に切り出して実践し少しずつできなかったことをできるようにしていく手応えを作っていきます。
上記の経験学習サイクルは不慣れな中で一気に進めていくことが難しいため段階的に進めていくことが重要です。
例えば、最初の1週間は情動とその時発生する感情をトラックし、翌週には自分がとっている意思決定のパターンを整理する。さらに翌週にはMVに照らした再評価を行い施策に落とし、さらに今・10分でできる程度の小さなアクション(クイックアクション)に切り出して実践してみる、といった具合です。どの行為においても自分の視野や視座だけではブラインドスポットに気づきにくいため伴走者の協力のもと他者の視点を活用するのが良いでしょう。
また、この経験学習サイクルがスムーズに回り始めた暁には、テーマや時間軸が多段階なMVに照らしメタマルチと呼んでいる多段階・多面的な施策出しと実践を行なっていきます。
ここでいうメタマルチとは自身の情動・感情といった内面から起こる反応を自身のM/Vに照らして多段階・多面的に捉え直し施策を出す考え方をいいます。この「多段階・多面的」のうち、「多段階」とは情動をM/Vに照らした時し、その気づきから、それぞれ今すぐ活用できるもの、3か月後のVisionに照らした時というように時間軸的な段階に分けて施策を想起していくことを言います。一方「多面的」とは1つの施策に様々な角度からアイデアを活用することで、例えばある課題と自身の課題から照らしたものとして捉えてみたり、事業におけるマーケティングに照らしたもの、セールスに照らしたものというように捉えてみることです。
起業家のなかで自我が動きやすい事の例として会社から離職者が出た場合をケースに、それをいかにメタマルチに解釈するのかを考えてみます。まず、人によって差はありますが、人が辞めたことが悲しいといった感情が起こります。他にも会社に魅力がないのかや競合他社の方が採用競争力があるのかということを思うはずです。これらをそのままに解釈すると採用競争力を付けようとなったり他の会社を調べるといった施策に行きつくかと思います。これをメタマルチによる多面的な解釈をすると、先ほどの解釈の他にそもそも会社にる人たちがどのようなキャリアを描いているのかや、入社してくる人たちが持っている期待はどのようなものか、会社を辞めるタイミングはどのようなものなのか、自分や相手には何か問題がなかったのかなど会社や自身、相手など多様な文脈で再度解釈します。多段階的な解釈をすると過去はどのようにしていたのか、今は何ができるのか、5年後に離職者がなくなるためには今どのようなことをしておけばいいかと考えて施策を出すことです。
他の例として、顧客から提供しているサービスに関するクレームをもらった場合を考えてみます。この場合、最初に悲しみや怒りといった感情が起こるでしょう。そのクレームが自身へ向けたものであった場合はその顧客と付き合うこと拒否しようとしたり、社員だった場合にはその担当者を糾弾するようなことをしてしまうことがあるかと思います。こうした状況で意識的に立ち止まり、メタマルチに解釈してみると、多面的な見方として顧客がどこにどのようなことを感じてクレームへと至ったのか、同業他社は類似したクレームに対してどのように向き合っているのか、自分以外の担当者であればクレームを引き起こさなかったのではないかというように再度解釈し直してみます。多段階的な見方では、以前はどのようなクレームが来ていたのか、それらはどう変化したのか、それに対して今できることは何か、長期的に考えて同じようなクレームを減らすような仕組みを作るのか、それを作っていくために今必要なことは何かというように過去から現在、未来へと視点を変化させて考えてみます。これらがメタマルチに施策を想起することです。このようにメタマルチを活用し、クレームから発生する情動(感情)を起点に施策を想起・実践できるようになることで、M/Vの実現、業績の向上、オペレーションの強化などに結び付け、学習が進むと、むしろクレームを受けることが学習機会であり、喜びにすら変化することがあるかもしれません。
この多段階・多面的に捉え直すことをメタマルチと読んでいますが、この行為自体は難易度が高いもので経験学習サイクルを作り上げる際に一緒に行うのではなく、一度経験学習サイクルが回った段階で行うようにします。
また、施策を想起するだけではなく、実際に行動し、頻度高く振り返るようにするためにDBを使ってこれらを可視化していきます。
実践のファーストステップ: 最近の経験の中からなにかをメタマルチしてみましょう。まず、自身が反応した経験に対して感じた情動や感情について、どのように感じたのかやその背景にあるものを分析してみましょう。
ステップ2-3:DB
ステップ1でDBを作成し、いよいよ日々の実践の中で活用していく段階となりました。
ここでは日々の実践の中でのDBの活用方法を紹介します。
DBは原則としてデイリー(毎日)で記録を取り、毎日活用していくことが望まれます。この「デイリーで記録する」ということに新しさを感じる人もいるかもしれませんが、日々の実践の細かな変化に敏感になるために欠かすことができません。人によっては週ごとや月ごとに活用すればいいと考える人もいるかもしれませんが、それでは日々の中での細かな変化を見逃してしまいます。細かな変化に敏感になれることとそこから気づきを得て施策を想起し、アクションへと繋げていくことの頻度を上げていくためにもDBを毎日活用していくことは大切なことなのです。
毎日毎朝DBを見て様々な差分からそれを学習へと繋げていくようにします。ここで言う差分とは、目標と実績の差分、昨日と今日の差分など様々なものがあります。日々の実践の中でその差分がいつもと同じトレンドなのか、何か変わったトレンドがあった場合、その変わったトレンドは何によって引き起こされたのかというのを見にいきます。そしてこの行動から施策が生まれたり、それを活用してDBを作り込んでいきます。作り込んでいく中でステップ1では見えていなかった変数やその変数たちの間にあるものを見に行って、隠れている変数を見えるようにしていくのです。
これを繰り返すことによって実践の解像度が上がっていき、徐々に実践の中で見えるものが多くなっていくと思います。こうして解像度が高くなったことで実践の中のボトルネックが分かるようになり、どのようにアクションを起こしていけばいいのかの舵取りが分かりやすくなってくるはずです。こうしていくうちに打てる施策が増えてくると同時に、取った行動であまり意味がなく変数に寄与しないものがあればそれは続けていても効用がないと判断して止めるということが意思決定出来たり、とある行動がある変数に関していい効用を及ぼすことが確からしくわかってきたらそこにリソースを配分するといった意思決定も可能になってきます。
Day1を始める前から粗々であれファネル(ストレッチターゲットを達成するまでのプロセス)を作っていると、時にはそれを大きく変える必要というのが出てくる場合もあります。もともと作り込んでいるファネルがその新事実を具備できるとは限らず、再構築が必要になることもあります。ただし、全部を壊すというのではなく一部を壊すという場合もあり臨機応変にそれらを加味していくようにします。
実践の中で見えてきたことからDBの精緻化を行いつづけ、時には前提としていた枠組みを疑い破壊する。これ自体が、作り込み(深化)と探索そのものと言えるでしょう。実践の中ではそれらをバランスよく行いDB上で管理していくことがFLPを進めていくうえで必要不可欠なことです。
ステップ3:FLPの修了
最後にステップ3です。このステップでは学習者は『社会と共創する熟達の初期学習実践』について理解しており、それはつまり自らが「探索と創り込み」を自走して行えるようになっているということです。この段階では学習者はSTを達成しており、エントリーポイント/エントリービジネスにおいて自らが高い収益を出しながら、さらにはそれを他者が実践できるような仕組化(システム)の構築が進んでいる状態とも言えます。仕組みがあるので学習者が持ち場を離れても利益は維持向上される状態にありますが、有事の際には学習者が介入すれば2,3ヶ月で元の状態に戻せる姿が「FLPが身に付いている状態」と言えるでしょう。
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